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続きを読む前に10回ほど鉢雷と唱えてください。笑
鉢雷です鉢雷。うん、きっと…!うん。
たそかれ
授業が終わってから夕飯までのわずかな時間、三郎は図書室まで本を返却しに行った雷蔵を待っていた。すぐに戻るという言葉を信じて床に寝そべりかえる。
襖から覗く日の暮れていく空を眺めながらとりとめのないことを考えていると、その顔に影がかかった。
いつの間に廊下を歩いてきたのか、気配も何も感じさせずに長い黒髪を揺らした学友が立っている。三郎が腹筋の力で起き上がるのと襖が閉じられるのは同時だった。
部屋が急に暗くなったことを不思議に思った三郎が顔をあげると、いつもの見慣れた天井が映る。体勢が元に戻っていた。それどころか両手が顔の横に抑えつけられている。右足はかろうじて難を逃れたものの、左足は膝の部分すねで固定されていた。ついでに後頭部が痛い。
「ぅえ!?わ、なに・・・っひ!」
首筋に浮き上がる骨を辿るように舐められて、思わず声が出る。振りほどこうとするが体重をかけた力強い拘束を抜けることはできなかった。
相手の意図を知りたいところだが顔を覗きこめない。目を合わせることもさせずにその舌は次の確実に追い詰められるだろう耳へと辿って行った。
三郎はいつも変装で覆っている顔とは違って素肌の向き出している首筋が弱い。そして頭巾で隠せている耳も弱かった。今日一日の学業はすべて終了したと忍び頭巾をほどいたのが悪かった。おかげで手を抑えつけられたまま難なく温かいものが耳たぶを軽く食み、そして舐めあげた。
悔しいがそれだけで身体が刺激に震え上がる。その反応に耳元で笑みが零れたのを感じ取った。押さえつけられたまま弱い部分をいじられるなど冗談ではない。そしてその場所を知っているのは―――。
(そっちがその気ならっ!)
なんとか腰を振り上げ、密着していた身体を浮かび上がらせて距離をとる。そして唯一無事だった右足を振り上げて、かかとを首筋にはめて足指で固定して、
一気に引き寄せた。
「むぅ!?・・・んっ!」
上手く唇を合わせて怯んでいるすきに早々に舌を捩れこませる。起き上がる力よりも抑え込む力の方が強いのは先ほどと同じだ。三郎には筋力こそないが、それを補って余りあるほどの相手の動きを縛る術を持っていた。少しだけ頭と肩が浮かんだが、そのまま合わせた唇から潜り込んだ舌が上顎をくすぐり、抵抗する力を弱める。奥に引っ込んだ舌を無理やり引き出して絡め捕り、溢れた唾液は嚥下した。
両手を固定したまま抗うのは無謀と判断したのか手頸を抑えていた掌は離れ、腕立て伏せの要領で床を押す。これ幸いとその力を利用したまま右の腰骨に後ろから左手を回し、右手は袷を掴む。そうして左側にひっくり返した。
今度は相手が何が起こったかもわからぬままに天井を見つめることとなる。我に返られる前にその身に乗り上げ、顎を固定して今度こそとその唇の内側を蹂躙しつくした。
抵抗するために肩を掴んだその手が縋るようなものに変わった時。唇を離して生まれた銀の糸を楽しそうに見つめながら顔の側面を掴む。
べりりっというすでに聞きなれた身近な音を響かせながら顔が離れていく。
そうしてやっと三郎は待ち人のその顔を見ることができたのだった。
「で。いったい何がしたかったんだ?雷蔵は」
腕の中で息も絶え絶えな雷蔵の背を撫でながら、無体なことをされたにもかかわらず上機嫌な笑顔を浮かべた三郎はやっとその発端を訊ねた。
一方、無粋な真似をした自覚のある雷蔵はそれでも釈然としないものを感じながら、涙で潤んだ瞳で恨めしそうにその顔を見やる。あの後、なんとか青臭い事態までは回避できたものの、さんざんな目にあったのだ。ちなみに回避方法は食事と風呂の後、である。
「この変装道具は…私の、か。」
すでに外された久々知兵助の鬘に触れる。確かに自分で買い求め、作り整えたものだった。
「あぁ、化粧類も含めて教室近くの物置に隠してあったやつを借りた。…無断使用は、悪かったよ。」
「うーん、次からは駄目だよ。」
「・・・うん。ごめんね。」
いくら雷蔵といえどもこの化粧道具の無断使用はいただけない。まるで頭の中をかき混ぜられるような感覚がして落ち着かない。今回は雷蔵だったということと、使われたものが予備においておいたものだったからまだ良かった。
そして大雑把故の扱いが少し心配なところだが、見たところ状態に異常はない。三郎の変装に対する矜持の高さを組み、ことさら丁寧に扱ってくれたことが伝わってくるようで、なにかこそばゆいものが胸をくすぐった。
愛おしさに浸りながらも誤魔化すように随分変姿の術が上手くなったものだなと感心していると、お手本が目の前にいるからなと甘く微笑まれる。せっかく我慢していたのにその笑みが決定打となって、気持ちに押されるまま腕の中の体温を抱き締めた。とりあえず満足した時に背を叩かれ、顔を覗きこめる程度に身体を放す。
「どのくらいで気付いたんだ?僕だって」
先程の答えも得られぬままに問い返された。・・・これはまさか。
「別に愛を試そうとかって理由じゃないよ。ただの好奇心、と言うよりは向上心かな?」
「あ、そうなのか。」
「そう。三郎に気付かれることくらい分かっていたしね」
安堵していいものかそれとも悲しむべきなのか分からないまま、一連のことを思い返してみる。
「まず気配を殺してきたのとその影に違和感を感じて、押さえつけ方と白粉の香りとそれに混ざった微かな体臭で解った、かな。」
「最初からじゃないか・・・」
分かってはいても悔しいのか、気落ちした顔をされると申し訳ない気になった。しかしこればかりは仕方が無い。見抜くのは当然なのだ。白粉はもともと自ら準備している嗅ぎ慣れたもの、鬘だって兵助のものという使用頻度の高い、必然的に手入れの機会も多いものだ。今日はたまたま物置に置いていたが、兵助の変装一式は常に持ち歩いている。
しかし重要なのはそこではない。たとえ使ったことのない白粉の香りでも、他の誰かが拵えた鬘でもどんなに仕草が完璧でまだ不慣れな声帯模写を口を噤むことで隠していも。
「あぁ、こんな感じなのか…」
ずっと不思議に思っていた。どうして雷蔵は自分の変装をいとも簡単に見抜くのだろうかと。なにか癖でも付いてしまっているのかと不思議に思うたびに訊ねるのだがいつも返ってくる言葉は同じものだった。
理由や根拠などない。そうだと思ったらそれが本当に三郎だったから。それだけだよ。
その言葉の意味が、やっとしっくりと体に沁み込んでいった。分からないほうがおかしい、こんなにも胸の奥で愛しいものはそこに在ると叫んでいる。
「三郎・・・?」
「うん、」
分かるものは分かる、んだよ。
三郎の感じたことを理解したのかくすくすとくすぐったそうに雷蔵が笑みを零し始める。つられるように三郎も笑った。
愛しくて愛しくて仕方がない。
これを逃したら一生の全てを懸けても見つけ出せないであろう自分にとって掛け替えのない存在に巡り合えた幸せに浸りながら、三郎はぎゅぅっとその幸運を噛み締めるように再び雷蔵に抱きついたのだった。
***
あぁ、きっと。
わたしはきみにならなにをされても受け入れてしまうんだろうよ。
「なんだよそれ、ぼくが受け入てないって言いたいのか。」
「いいえ、全くめっそうもないです!」
ありえない懐の深さで許してもらっています!
ところで結局のところこれを伝えたかったのか?
ううん、僕のほうが腕力あるのにどうして抜け出せないのかなぁって、検証。
・・・検証?
うん、実際押し倒してみてくれなんて言ったらそのまま喰われるだろう。だから逆にしてみた。力ずくで抑え込んだとして、どうやってお前は抜け出すのかなぁと。
対らいぞーさん専用手段取ってしまったんですが。
うーん、僕だと喜ばれるだけだと思ったから変装してみたんだけれどなぁ。
だいたい、俺が元々不感症なの知っているでしょう。変装は無意味だ。
あぁ。首筋舐めて声出された時に、「あ、ばれてる。」って思ったよ。
それでも続行するんだ?
それこそ問題ないだろう?
あはは、そーだなあ。
end
雷蔵以外不感症説逆に雷蔵さんに触れられると途端にところてんになっちゃうよ☆ 話。
・・・だったはずなのにずれた。そして毎回のことながら恥ずかしい内容です。
久々鉢でなければ雷鉢でもありません。
うん、三郎ちゃんと襲い返してくれた。よかった。
そして三郎君はなにされても雷蔵さんのことを蹴れません、ということも書きたかったけれど、も、微妙!
09.06.04.完成。
.08.28.改変。
鉢雷です鉢雷。うん、きっと…!うん。
たそかれ
授業が終わってから夕飯までのわずかな時間、三郎は図書室まで本を返却しに行った雷蔵を待っていた。すぐに戻るという言葉を信じて床に寝そべりかえる。
襖から覗く日の暮れていく空を眺めながらとりとめのないことを考えていると、その顔に影がかかった。
いつの間に廊下を歩いてきたのか、気配も何も感じさせずに長い黒髪を揺らした学友が立っている。三郎が腹筋の力で起き上がるのと襖が閉じられるのは同時だった。
部屋が急に暗くなったことを不思議に思った三郎が顔をあげると、いつもの見慣れた天井が映る。体勢が元に戻っていた。それどころか両手が顔の横に抑えつけられている。右足はかろうじて難を逃れたものの、左足は膝の部分すねで固定されていた。ついでに後頭部が痛い。
「ぅえ!?わ、なに・・・っひ!」
首筋に浮き上がる骨を辿るように舐められて、思わず声が出る。振りほどこうとするが体重をかけた力強い拘束を抜けることはできなかった。
相手の意図を知りたいところだが顔を覗きこめない。目を合わせることもさせずにその舌は次の確実に追い詰められるだろう耳へと辿って行った。
三郎はいつも変装で覆っている顔とは違って素肌の向き出している首筋が弱い。そして頭巾で隠せている耳も弱かった。今日一日の学業はすべて終了したと忍び頭巾をほどいたのが悪かった。おかげで手を抑えつけられたまま難なく温かいものが耳たぶを軽く食み、そして舐めあげた。
悔しいがそれだけで身体が刺激に震え上がる。その反応に耳元で笑みが零れたのを感じ取った。押さえつけられたまま弱い部分をいじられるなど冗談ではない。そしてその場所を知っているのは―――。
(そっちがその気ならっ!)
なんとか腰を振り上げ、密着していた身体を浮かび上がらせて距離をとる。そして唯一無事だった右足を振り上げて、かかとを首筋にはめて足指で固定して、
一気に引き寄せた。
「むぅ!?・・・んっ!」
上手く唇を合わせて怯んでいるすきに早々に舌を捩れこませる。起き上がる力よりも抑え込む力の方が強いのは先ほどと同じだ。三郎には筋力こそないが、それを補って余りあるほどの相手の動きを縛る術を持っていた。少しだけ頭と肩が浮かんだが、そのまま合わせた唇から潜り込んだ舌が上顎をくすぐり、抵抗する力を弱める。奥に引っ込んだ舌を無理やり引き出して絡め捕り、溢れた唾液は嚥下した。
両手を固定したまま抗うのは無謀と判断したのか手頸を抑えていた掌は離れ、腕立て伏せの要領で床を押す。これ幸いとその力を利用したまま右の腰骨に後ろから左手を回し、右手は袷を掴む。そうして左側にひっくり返した。
今度は相手が何が起こったかもわからぬままに天井を見つめることとなる。我に返られる前にその身に乗り上げ、顎を固定して今度こそとその唇の内側を蹂躙しつくした。
抵抗するために肩を掴んだその手が縋るようなものに変わった時。唇を離して生まれた銀の糸を楽しそうに見つめながら顔の側面を掴む。
べりりっというすでに聞きなれた身近な音を響かせながら顔が離れていく。
そうしてやっと三郎は待ち人のその顔を見ることができたのだった。
「で。いったい何がしたかったんだ?雷蔵は」
腕の中で息も絶え絶えな雷蔵の背を撫でながら、無体なことをされたにもかかわらず上機嫌な笑顔を浮かべた三郎はやっとその発端を訊ねた。
一方、無粋な真似をした自覚のある雷蔵はそれでも釈然としないものを感じながら、涙で潤んだ瞳で恨めしそうにその顔を見やる。あの後、なんとか青臭い事態までは回避できたものの、さんざんな目にあったのだ。ちなみに回避方法は食事と風呂の後、である。
「この変装道具は…私の、か。」
すでに外された久々知兵助の鬘に触れる。確かに自分で買い求め、作り整えたものだった。
「あぁ、化粧類も含めて教室近くの物置に隠してあったやつを借りた。…無断使用は、悪かったよ。」
「うーん、次からは駄目だよ。」
「・・・うん。ごめんね。」
いくら雷蔵といえどもこの化粧道具の無断使用はいただけない。まるで頭の中をかき混ぜられるような感覚がして落ち着かない。今回は雷蔵だったということと、使われたものが予備においておいたものだったからまだ良かった。
そして大雑把故の扱いが少し心配なところだが、見たところ状態に異常はない。三郎の変装に対する矜持の高さを組み、ことさら丁寧に扱ってくれたことが伝わってくるようで、なにかこそばゆいものが胸をくすぐった。
愛おしさに浸りながらも誤魔化すように随分変姿の術が上手くなったものだなと感心していると、お手本が目の前にいるからなと甘く微笑まれる。せっかく我慢していたのにその笑みが決定打となって、気持ちに押されるまま腕の中の体温を抱き締めた。とりあえず満足した時に背を叩かれ、顔を覗きこめる程度に身体を放す。
「どのくらいで気付いたんだ?僕だって」
先程の答えも得られぬままに問い返された。・・・これはまさか。
「別に愛を試そうとかって理由じゃないよ。ただの好奇心、と言うよりは向上心かな?」
「あ、そうなのか。」
「そう。三郎に気付かれることくらい分かっていたしね」
安堵していいものかそれとも悲しむべきなのか分からないまま、一連のことを思い返してみる。
「まず気配を殺してきたのとその影に違和感を感じて、押さえつけ方と白粉の香りとそれに混ざった微かな体臭で解った、かな。」
「最初からじゃないか・・・」
分かってはいても悔しいのか、気落ちした顔をされると申し訳ない気になった。しかしこればかりは仕方が無い。見抜くのは当然なのだ。白粉はもともと自ら準備している嗅ぎ慣れたもの、鬘だって兵助のものという使用頻度の高い、必然的に手入れの機会も多いものだ。今日はたまたま物置に置いていたが、兵助の変装一式は常に持ち歩いている。
しかし重要なのはそこではない。たとえ使ったことのない白粉の香りでも、他の誰かが拵えた鬘でもどんなに仕草が完璧でまだ不慣れな声帯模写を口を噤むことで隠していも。
「あぁ、こんな感じなのか…」
ずっと不思議に思っていた。どうして雷蔵は自分の変装をいとも簡単に見抜くのだろうかと。なにか癖でも付いてしまっているのかと不思議に思うたびに訊ねるのだがいつも返ってくる言葉は同じものだった。
理由や根拠などない。そうだと思ったらそれが本当に三郎だったから。それだけだよ。
その言葉の意味が、やっとしっくりと体に沁み込んでいった。分からないほうがおかしい、こんなにも胸の奥で愛しいものはそこに在ると叫んでいる。
「三郎・・・?」
「うん、」
分かるものは分かる、んだよ。
三郎の感じたことを理解したのかくすくすとくすぐったそうに雷蔵が笑みを零し始める。つられるように三郎も笑った。
愛しくて愛しくて仕方がない。
これを逃したら一生の全てを懸けても見つけ出せないであろう自分にとって掛け替えのない存在に巡り合えた幸せに浸りながら、三郎はぎゅぅっとその幸運を噛み締めるように再び雷蔵に抱きついたのだった。
***
あぁ、きっと。
わたしはきみにならなにをされても受け入れてしまうんだろうよ。
「なんだよそれ、ぼくが受け入てないって言いたいのか。」
「いいえ、全くめっそうもないです!」
ありえない懐の深さで許してもらっています!
ところで結局のところこれを伝えたかったのか?
ううん、僕のほうが腕力あるのにどうして抜け出せないのかなぁって、検証。
・・・検証?
うん、実際押し倒してみてくれなんて言ったらそのまま喰われるだろう。だから逆にしてみた。力ずくで抑え込んだとして、どうやってお前は抜け出すのかなぁと。
対らいぞーさん専用手段取ってしまったんですが。
うーん、僕だと喜ばれるだけだと思ったから変装してみたんだけれどなぁ。
だいたい、俺が元々不感症なの知っているでしょう。変装は無意味だ。
あぁ。首筋舐めて声出された時に、「あ、ばれてる。」って思ったよ。
それでも続行するんだ?
それこそ問題ないだろう?
あはは、そーだなあ。
end
雷蔵以外不感症説逆に雷蔵さんに触れられると途端にところてんになっちゃうよ☆ 話。
・・・だったはずなのにずれた。そして毎回のことながら恥ずかしい内容です。
久々鉢でなければ雷鉢でもありません。
うん、三郎ちゃんと襲い返してくれた。よかった。
そして三郎君はなにされても雷蔵さんのことを蹴れません、ということも書きたかったけれど、も、微妙!
09.06.04.完成。
.08.28.改変。
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