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昨日から委員会の仕事で部屋を空けていた留三郎が、襖を開けるとそこにいた。
驚かしてやろうか、けれど襖を開けるまで全く気配など殺していなかったのだ。おそらく気付かれているだろう、だのになんの声も掛けてこないことにそれほど集中しているのかといぶかしみながら静かに机に近付き覗きこむ。
見ると手元には何かの設計図、当の留三郎は真横にある衝立に寄りかかってその目を閉じていた。
なんだ、眠っていたのかと珍しく机に向かう背が傾きに傾いていた理由に気付いた伊作は留三郎の背を揺する。いくら外が明るいと言ってもちゃんと布団に入って休んだ方が疲れは取れる。逆に変な体勢で寝かせたままでは体を痛めてしまうだろう。 衝立だって、今は反対側の大量の伊作の机や薬箱やらに支えられているがいつ倒れるかわからない。
「もう、留、留三郎!起きなよ。おとめーっ。」
どんなに揺らしても応えるのは緩やかな寝息と微かな唸り声。
余程疲れているのだろう、こうなったらと伊作は作戦を変更した。
腰に提げていた巾着から掌に収まるほどの大きさの小鉢を取り出す。中に立っていた蝋燭に手早く火を着け懐から取り出した薄紙に包まれた粉末を少しずつ火に炙った。それを片手に纏めて留三郎の鼻先に掲げる。
もう片方の手は麻布で自分の口許を覆う、備えは万全だった。
ただの睡眠薬だ。本当にただの。新作は仙蔵にあげてしまったから。明日の文次郎の隈がどれ程薄まっているか楽しみだ。いや今はその話がしたいのではない。
この睡眠薬は常備しているものだから効き目は特性や新作よりは劣る。とは言っても忍術学園の生徒を基準としているので一般人には充分な効力を持っているが。
留三郎は既に夢の中だ。これは念のためにと粉末のすべてを小鉢に落とすと蝋燭の火を消して机に置いた。
これで多少の物音では睡眠を妨害しないだろうと達成のため息を落とすと、襖を開けて留三郎の布団を取り出した。彼の背後にそれを敷き、あとはそっと横たわらせてやれば良い。
少しでも衝撃を和らげようと掛け布団をくるむように肩から背へ掛けようとしたとき、ある部分に目が止まった。
先ほど覗き込んだときより眉間のしわが幾分か和らいでいる。そういえば対象は同級や可愛い後輩なのだからと安眠を促す安定剤の類いを混ぜたことを、共同で作り上げたにこやかな保健室の主の顔と共に思い出した。
そっと、眉間に親指の腹を当てて優しく揉みほぐす。
すると眉への力が弱まり、いつも見る顔より幼い寝顔となった。
それになんだかこそばゆい気持ちになった伊作は、どうせ当分目覚めないのだからと思う存分触っておくことにした。
目の下の柔らかい部分をゆっくりと辿る。腫れぼったくなっていはしたものの、隈にはなっていなかった。 そのままこめかみを過ぎて形の良い後頭部のラインを楽しむ。 横にするのだし、何よりも髪が既に乱れて幾房か落ちてしまっている。だから構わないだろうと短い髪をきつく束ねる髪紐に手を伸ばし、するりと引き抜く。
癖のないさらさらとした肩に掛かるほどの髪が、端正な顔の輪郭を覆った。
羨ましいと思いながらその髪をすき、目に掛かった前髪を払う。
隠れてしまっていた目許が現れる。寝息が手のひらに掛かり、胸の奥がことりと動いた。
少し迷ったものの、こんな機会滅多にない。そう、こんなに間近で、なにも誤魔化さずに見つめる機会などないのだ。
我に返った時には既に唇が留三郎の目許に触れていた。伊作の一番好きな部分。今は閉ざされ窺えない目付きの、鋭さとは反してとても柔らかな光を宿している瞳をもう知っている。
両手で頬を包み込み、目じり、鼻の頭、こめかみへと触れていった。
そしてある部分を目にして数秒動作を止めると、そっと薄く開かれたそこに己を重ね合わせた。
すぐに離した唇に、柔らかくて甘い感触が残る。
触れたばかりだと言うのににもう一度したくなった。
我慢しきれずにまた唇を寄せる。
起きないなんてことわかっている。
なのに今にもあの強い眼差しにいぬかれてしまうのではないかと目蓋を閉じられない。
直ぐ傍に吐息を感じるのに、ひどく遠い。
「ん・・・、」
狭まらない微かな距離に焦れ、己を鼓舞して背を僅かに倒した。
途端に感じた温度に自分で驚き、つい声が出る。
留三郎に覚醒する兆候がないことを確認すると、柔らかい肉の境目をなぞり、顎に手を掛けて開くように促した。
生まれた隙間に舌を滑り込ませる。やはり、どこか甘い気がした。
少し尖りのある歯列をなぞり、柔肉を味わった。舌を絡めて混ざりあった唾液を吸い取り嚥下する。
最後に上壁を嘗め上げて唇を離す。時折揺れる肩と先ほどとは別の眉根を寄せた表情に、なんだかくすぐったくて、なのに涙が零れそうで頬が熱くて。
しあわせ、とは言わないんだと思う。こんな一方的な行為。
でも、不運な子にも少しぐらいズルいご褒美を、我が儘を、
許してくださいと、何に向けることなく祈った。
彼の唇に触れ、拭うように辿る。
布団に横たわらせたらここを離れるから、戻ってきたらいつも通りだから。
通常から離れた異常の中で、最後にひとつだけ真実を溢させてほしい。
本当に、これが最後―――。
「大好きだよ、留三郎。」
後のことは覚えていない。
ただ、本当はもうひとつ望んでいたものが、一瞬だけ見えた。
焼けるような強い眼差しが。
気付いた時に見たものは、自分が敷いたはずの留三郎の布団と、その本人の緑の衣。
□ □ □
いつも誰よりも真っ先に実験に使われているんだ。今さら一般向けの薬が効くものか。
あまやかな苦い笑みを浮かべた少年が蜜色の髪を撫でる。
でもこんな幸運が待つなら、もう少し試薬に協力的になってもいいかもしれないと溢しながら。
今度こそ運の乏しい少年は、しあわせに頬を染め上げた。
***
襲ってないですよー。
いろんな衝動に身を任せて勢い良くキスしたら酸欠にさせた挙げ句、眠気が襲ってきて抱き枕にしただけです。
そして当初は食満を狸寝入りさせるつもりだったのに(襲わせる気なかった。)伊作が告白はするわ後ろ向きになるわだから男になってもらいました。
襲ったら話が終わらなくなると思っていた。
そして少々業務連絡
私なんか受信した?テクノなんか念派だした???
予想外に伊留った。いや、テクノが妄想する伊留や留伊とは違うと思うけどっ。
まだ書き始めたとき絵板まとめ記事とか読んでいなかったのに!!
たぶん勝手に拾ったんだな電波。盗聴機のごとく。
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