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「来るな」
普段はあまり使われていない、学級委員会の委員会室はその使用頻度の低さからか、他の部屋から離れた奥まった場所にある。
締め切られた部屋は薄暗い。入り口につっかえ棒を仕掛けて、部屋の中央に座り込んだ。
心の臓が早い。足が震えるのはこれから先への恐怖か、緊張か。
「来るなってば」
背後にした襖障子から入る光が、人目で見渡せる狭い部屋には確かに存在しなかったものの影を映し出す。
気配は今もしない。確かに背後にいるというのに。
それは、音も気配も、空気さえ動かさずにそこにあった。
ゆっくりと振り返る。
「・・・三郎」
足音もたてずに近付かれる。それに合わせて後ずさった。しかし狭い部屋では直ぐに壁に阻まれる。
二人は同じ距離のまま動かなくなった。
「戻れなく、なるよ・・・?」
一歩、三郎が踏み出す。
「戻ってよ、いつものお前に」
また一歩。
足を折り曲げて少しでも距離をとろうとするが無駄。もう一歩、距離が縮んで目の前にしゃがみこまれる。
その瞳には、何も映ってはいなかった。ただその奥に冷たく研ぎ澄まされた刃が存在るのがわかる。
あぁ、これが狂気か。
「・・・何があっても、留まれない、の?」
声が掠れる。手が頬に伸ばされたことに気付かず、喉が引きつった。
「もう、揺るが…」
「雷蔵」
顔が近付く。やっと彼の吐息が触れて、存在を感じられた。
「雷蔵。もう何も言ってくれるな。逃がせなどしない」
「さぶろ…っうあぁああっ!!!」
ぼきぃ、という音がやけに体の中で反響した。
思わず目の前の体にしがみつく。右足が、外側に曲がっていた。
「は、さぶろ、ぅ・・・」
自然に滲み出た涙を、口唇が拭っていった。
「もう、壊れてしまってでも、」
抑えられない。頼むから、
抗わないで。
痛みで噛み締めた口唇を奪われた。
同時に呼吸も、
自然に浮かんでしまった、笑みも。すべて。
ほんとうに、揺るがない?
針を飲み込んでしまった。
にげられないのは、だれだろう
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