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七松小平太は常々思っていた。中在家長次の髪はさながらトウモロコシのようだと。
緑色の頭巾から流れ出る焦げ茶色の髪、トウモロコシよりも色素は濃いがそう見えてしまったのだから仕方がない。
小平太は図書室から帰るなり借りてきた本を消化し始めた長次の背後に迫り、その髪に触れた。
本を前にした長次はいつにも増して構ってくれなくなる。長年の攻防の末にそれを学んだ小平太は、今日は大人しく紙の束に長次をくれてやることにした。
あぁ、しかしトウモロコシなどとは比べ物にならないな、と絡まることなく指からこぼれ落ちる髪を見続けながら彼は不思議に思った。
これこそがサラサラストレートと呼ばれるものではないだろうかと。それなのに彼の髪に対しては誰からの賛辞も聞いたことがない。
艶のあるなしの差かと、今度油を指してみようかなどと聞く人が聞けば蒼白にさせてしまいそうなことを考えながら、小平太はその広い背に寄りかかった。
余りにも読書を続けられない状態に追い込めば笑顔を浮かべて放り出されるが、長次は滅多に自室では実力行使には出ない。そのさじ加減までもいつの間にか本能に叩き込まれていた小平太は、頬をその背に押し付けながらなおもその髪を鋤き続けた。
(・・・長次の匂いがする。)
基本、忍に体臭などご法度で、そうそう香ることもない。しかし先ほどまで図書室にいた長次からは日に焼けた紙や墨の匂いが制服に着いていた。
小平太にとって、何度も何度も触れていたそれは紛れもなく彼の認識した長次の匂いであった。
指から滑り落ちる髪の感触、背から伝わる熱や一定に刻まれる鼓動音、優しく捲られる紙すれの音。
そして長次の匂いに包まれて五感を余すところなく満たされた小平太は、やがて腕と共にその瞳を下ろした。
突発ゲリラ砂(糖)嵐。byちょこへ
こへの口の中にはトウモロコシの味が広がっていることでしょう。
長次は健全にお子さまが寝息を立て始めたので羽織を掛けつつ、その温度に自分も眠くなってます。
08.04.18.
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